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会わなくていいと考えるアメリカ人と交渉

アメリカ人との国際交渉術 >> 第三投稿:会わなくてもいいと考えるアメリカ人

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電話がかかってくる。「A社のトムです。先ほど提案書のドラフトをお送りしたのですが、少し説明したいポイントがあります。今お時間大丈夫ですか。」と聞き慣れていない声が語る。

こんなマナーを無視するような人を相手にして大丈夫か、と考える日本人は多くいるだろうが、ニューヨークではこれが普通のやり方なのである。

この「トム」という人物には一度も会ったことがなく、今までの関係は短いメールの交換にすぎない。私と同じくニューヨークにいるのか、またはサン・フランシスコにいるのかさえ分からないのに、締め切りが迫っているからと電話で単刀直入に交渉に入ってしまうのだ。こんなマナーを無視するような人を相手にして大丈夫か、と考える日本人は多くいるだろうが、ニューヨークではこれが普通のやり方なのである。まずは顔を合わせて相手との信頼関係を構築しよう、という考え方は重んじられていない。

「アメリカ人との国際交渉術」連続投稿へのイントロダクションはこちら

では、なぜアメリカ人は信用性を高めてから交渉するのではなく、直接交渉に及ぶのだろうか。アメリカ人の観点から考えてみた時に、主に三つの理由が思い浮かんだ。

アメリカ人が「信用性」というコンセプトをあまり重んじない。

一つ目は、アメリカ人が「信用性」というコンセプトをあまり重んじないことだ。ジョイント・ベンチャー等のケースを除き、企業間取引に関しては法律を守ってさえくれれば相手にしてもいいと一般的に思われている。契約が破られることも珍しくはないが、契約が破られた時に被る損害を想定して解約料を高く設定するかどうか判断するのは自分の責任だ、という考え方も一般的に浸透している。つまり、相手と長い関係を築き上げるよりも、自分の利益を可能な限り最大化しようという文化なのだ。

二つ目は、株主の考え方である。たとえキャッシュリッチな大手企業であっても、株主からは費用を抑えて純利益を最大化するようプレッシャーを受けており、実際に顔を合わせてミーティングをするための飛行機代やホテル代、弁護士の費用等は極力縮小すべきだと考えられている。そのため、ミーティングは出来る限り電話会議にし、特別なメリットがある時に限って顔を合わせての会議を行うことが普通なのである。特に理由がない時にわざわざ対面での会議を依頼されることは意外なことであり、アメリカ人に頼んだ場合にはそれだけで多少難色を示されることもある。

対面会議を少なくすることで交渉プロセスをスピードアップさせることが出来る。

三つ目は、時間の問題だ。「スピード感覚が全く違うアメリカ人」の投稿でも取り上げたが、一般的にアメリカ人のビジネスパーソンのスピード感は日本人の感覚と遥かに異なる。顔を合わせてのミーティングをできるだけ少なくすることで取引・案件のスピードが上がるため、アメリカ人にとって必要性がない場合にわざわざ対面会議を行うのは異常なことだと認識される。

このようなアメリカ人の考え方は、どの場面で交渉の強みになるのか

交渉においては、この考え方の主なメリットは一つだけだと考えられる。「スピード感覚が全く違うアメリカ人」でも取り上げたが、対面会議を少なくすることで交渉プロセスをスピードアップさせることが出来る。そして、交渉プロセスのスピードを上げることで、相手候補者を増やす、または一つの相手にフォーカスすることで短期間で契約の締結まで進めることが出来るため、交渉が有利に進む可能性が高まる。

しかし、気を付けるべきポイントもある

交渉を最も効率的に行うために出来るだけ同じ部屋で顔を合わせて議論することが一番良い、という反対の声はアメリカにもある。なぜならば、対面で議論することで交渉の雰囲気が攻防戦よりも協力的な問題解決となる可能性が高く、ポジティブな結果に至る確率も増加するからだ。電話、更にはメールで交渉すると、相手の人間性を忘れ、自分の主張を押し通そうと理詰めで迫ったり強い言葉で相手を負かそうとしてしまうことが多い。強さだけでは交渉を良い結果へ導くことが難しく、両サイドからの協力や妥協が必要だという点も心に留めておきたい。

では、いかに上記理論を取り込んでいくのか

重要な点は三つある。

アメリカ人が対面で会うことに抵抗を示した場合でも、それだけで取引・案件に興味がないと判断できるわけではないことだ。

一つ目は、アメリカ人が対面で会うことに抵抗を示した場合でも、それだけで取引・案件に興味がないと判断できるわけではないことだ。では、実際に会いたい時はどうすれば良いだろう。一つの可能性は、会いたい理由を簡潔に説明することだろう。例えば、「We think in order to make this session as productive as possible it would be best if we can meet and discuss in person.」(「このミーティングを最も効率的に行うためには、実際に会って議論するのが良いと思っています。」)というように、対面会議の必要性を裏付ける理由を説明することで、アメリカ人が合意する可能性がある。

二つ目は、実際に会うことなく電話会議で交渉することになった場合、出来る限り協力的な雰囲気を育むよう努める姿勢が重要であるということだ。相手と実際にあったことがなく、交渉の大部分が電話でなされる場合、対立的な交渉関係が出やすくなる可能性は高い。協力的なフレーズ、例えば「We can’t agree to this.」等よりも「We need to solve this so we can keep moving forward.」等を使用することで望ましい印象を与えるだろう。

三つ目は、会わなくても良いと考えるアメリカ人のマインドを理解することだ。信頼関係をそこまで重視せず、ビジネスメリットに圧倒的なフォーカスを置くため、交渉の場で信用性をそれほど強調する必要はない。自分と手を組むことがいかに相手の利益になるのか、を強調することが一番大事なのだ。


アメリカ人との国際交渉術 >> 東京ネクサスの連続投稿へのイントロダクション

アメリカ企業との新規取引が入ったらどう対処すべきだろうか。

アメリカ人が相手側となって、取引、契約の条件等を交渉する場合、特に どこに気をつけるべきなのか。相手が強い態度を取った場合、その理由は何なのだろうか。交渉の進歩に不満があるのか、只の交渉戦略なのか、又はアメリカ人 にとって普通のやり方なのか。そして、どのように文化の違いを乗り越え、望ましい条件を勝ち取れるのだろうか。国際化が続く日本では、この問題点はさらに 重要になっており、国境を越えた交渉を成し遂げるスキルやノウハウは、昨今益々貴重なものとなってきている。

この連続投稿では、日本在住のアメリカ人コンサルタントが上記の質問に答えていく。ニューヨークと東京での実務経験に基づき、アメリカ人の一般的な交渉方法、考え方、ビジネス文化等を、日本の国際交渉初心者に向けて説明し、対応方法も提案する。国際交渉がフォーカスであり、一般的な交渉技術よりは特にアメリカ人との交渉で必要となる知識にスポットを当てている。

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