ハーバード流「 交渉術の聖書」に見る交渉5原則

ハーバード流「 交渉術の聖書」に見る交渉5原則

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アメリカで「交渉術の聖書」と呼ばれる”Getting to Yes: Negotiating Agreement Without Giving In”を最近読み終えた。この本は、ハーバード・ロー・スクールの教授とハーバード・ネゴシエーション・プロジェクトの創立者が協力し、交渉でいかに最適な結果を導くことが出来るのかという課題に対する研究を基に書かれたものなのだが、非常に興味深く、この本の中で説かれているアドバイスは私の交渉実務経験と完全に一致している。この投稿では、その中の5つの大原則を取り上げてみたい。

ハーバード流交渉術の5大原則

第1:条件や要求そのものに基づき交渉しないこと

原則第1は、相手の条件や要求の裏には本当の目的が潜んでいるため、目先の条件や要求に注目するのではなく、目的自体にフォーカスを当てて交渉すべきということだ。具体例をイメージしてみよう。

目先の条件や要求に注目するのではなく、目的自体にフォーカスを当てて交渉すべきということだ。

例えば、自分が事業主で、オフィスを変える必要があるとする。ようやく理想的な物件が見つかり、しかも家賃も手頃。だが、貸してくれる不動産会社は「特定の時間帯に限らず、かつ事前通知せずに点検のためにオフィスに入る権限がほしい」と主張する。一方、自分のビジネスでは顧客がオフィスに訪ねてくる機会が頻繁にあり、点検者がミーティングの途中で急にオフィスに入ってきたら顧客に悪い印象を与えかねない。

この場合、一般的な交渉のやり方では、不動産会社が「いつでもオフィスに入る」という条件を主張し、自分が「それは難しい」と反発する。そこで、不動産会社が「月・水・金に入る」と提案し、結局「月・水だけ入る」という条件で合意に至る。このプロセスは、条件や要求そのものに基づいた典型的な交渉だ。

しかし、典型的ではあるが、非効率的かつ理想的な結果を達成できないやり方である。「交渉術の聖書」によると、この交渉方法(原文の英語では「positional bargaining」という)は避けるべきだと説いている。

第2:交渉相手と交渉点を切り離すこと

では、「条件に基づいた交渉を避けろ」と簡単に言うものの、具体的にはどうすべきなのか。

原則第2では、交渉相手自身の問題(例えば、性格や態度)と交渉の問題点とは切り離すことが大事だとしている。

協力的な雰囲気を作り上げる中で自分の提案を出し相手の意見を求めるべきだ。

例え性格的に難しい相手であったとしても、攻撃的になることなく、まずはなぜ自分がこの条件を提案するのかという理由と裏づけする論理を説明すること、そして協力的な雰囲気を作り上げる中で自分の提案を出し相手の意見を求めるべきということだ。

前述の例で考えてみよう。不動産会社から点検する権限の必要性が主張された場合、「弊社にとって、それは難しい話ですね。」と反発する人が多いだろう。これは、とても自然で分かりやすい反応である。

だが、ハーバード流交渉術は違う。

ハーバード流では、反発の代わりにわざと協力的な言葉遣いを用い質問等をすることで、相手の考え方を聞くのである。つまり、前述の場合の対応としては、「そうですね、オフィスがきちんと維持されているか確認することは確かに重要なことです。しかし、弊社は来客が多いビジネスなので、顧客にとって快適な雰囲気を育むことが営業の観点から極めて大事なことです。どのようにすれば良い雰囲気を保てると思われますか。」という返事が好ましいだろう。対応を変えることで、協力しながら問題を解決しようという環境が作られるのだ。

第3:要求の背後にある実際の目的にフォーカスし交渉すること

原則第3は原則第1と密接に結び付いている。ポイントは、相手が条件・要求を出してきた場合に、その背後にある実際の目的が何であるかを理解する必要があること。なぜなら、その条件や要求は相手が目的を達成するための方法の一つに過ぎない可能性が高いからである。

では、相手の目的をどのように聞き出すのだろうか。これは意外と簡単なことだ。

相手が条件・要求を出してきた場合に、その背後にある実際の目的が何であるかを理解する必要がある。

前述の設定で考えてみよう。例えば、相手に対して、「時間を指定せずにオフィスを点検するという条件は一般的ではないように思いますが、御社が合理的ではない条件を出されるとは考えにくいです。私はこのような建物の管理に関する事情に疎いため、もし宜しければ御社がこの条件を必要とされる理由を簡単にご説明頂けますでしょうか。」と質問してみるのはどうだろう。

相手自身も相手の要求も攻撃することなく、条件や要求の基となっている目的を炙り出す。これにより、本来の目的にフォーカスした提案を出すことが出来るようになり、お互いが合意に至る確率が高まるのだ。

第4:相互利益の道を考え出すこと

不動産会社が要求の目的を説明してくれるとしよう。例えば、「実は最近、弊社が管理している物件で、契約に違反して改装が行われるという事態が数件起こっており、復元にかかるコストが敷金を超えてしまうことがありました。それに伴い、弊社では新規にポリシーを設定して、毎月事前通知をせずに不動産の状態を点検させて頂くことになったのです。」という理由であったとする。

交渉の両サイドの目的を把握しあらゆる可能性を探ることで両サイドの目的を達成できるソリューションに集中すべきだ。

この場合、すぐに一つの代替案が思い浮かぶのではないだろうか。敷金を増やす代わりに点検に事前通知を必要とする、という条件に変えることで不動産会社の懸案事項が解消され(=目的が達成され)、かつ自分の条件もクリアできる可能性が他に出てきたことになる。この相互利益を実現させるルートは、交渉相手の本来の目的を理解したからこそ表面化されたのである。

すなわち、交渉の両サイドの目的を把握しあらゆる可能性を探ることで両サイドの目的を達成できるソリューションに集中すべき、というアドバイスだ。

第5:客観的な基準しか使わないこと

最後に、前述の例では敷金を増やしても良いことになったが、果たしてどの程度の敷金の増額がフェアであるのか。コンセプトレベルでは双方の合意があるが、詳細についてはどのように合意に至るのだろう。

客観的な基準に基づき交渉するのであれば当然、自分もその基準に対し柔軟性を持たなければならない。

原則第5では、この場合、客観的な基準が必要と説いている。例えば不動産会社の場合は、同じ地域の家賃契約時の敷金・礼金等の相場、改装を復元するために支払った金額又はその両方を基準にすることができると考えられる。客観的な基準に基づく提案である限り、その合理性を評価することが可能となり、相手を説得できる可能性が高まる。

もっとも、客観的な基準に基づき交渉するのであれば当然、自分もその基準に対し柔軟かつ合理的でなければならない。なぜなら、客観的な基準を基にフェアな結果を目指さなければ、この方法を相手に正当化できないからだ。言うまでもなく、相手と長期に渡る継続的なビジネス関係がある場合には更にこのアプローチは望ましく、様々なプラス面をもたらすだろう。

 

以上、アメリカ文化に基づいた分析とはいえ、この交渉術は基本的にはどの場面でも使えるだろう。弁護士として多くの厳しい交渉を見てきた経験からも、国を問わずこの原則に従うほど交渉で望ましい結果に結びつくことが多いと思われる。

上記に述べてきたことは簡単な概要だけであり、本の中では多くの面白いアドバイスが書かれているので、興味を持たれた方は是非読んでみてほしい(和訳版もあり)。

この投稿は東京ネクサスCEOのモンローシェリダン・リードにより作成された。

 

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