早稲田大学ビジネススクールのグロスバーグ・ケニス教授とのインタビュー

グロスバーグ・ケニス博士とのインタビュー

早稲田大学ビジネススクールのグロスバーグ・ケニス教授とのインタビュー

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グロスバーグ ケニス博士(以下、グロスバーグ教授)は、早稲田ビジネススクールのマーケティング分野を担当されている教授兼、早稲田マーケティングフォーラムのディレクターです。グロスバーグ教授は、国際ビジネス及びマネジメント分野の教育に40年近くも関わっており、その多くを日本と環太平洋で過ごされています。グロスバーグ教授は、プリンストン大学にて政治学・東アジア研究の博士号を取得後、東京大学及びハーバード大学にて研究の一部を引き継いでいます。

グロスバーグ・ケニス博士

グロスバーグ教授

1985年には、シティバンクのヴァイスプレジデント兼アジア太平洋地域における消費者サービスグループのチーフストラテジストとして入社。チーフストラテジストとして、アジア10カ国の戦略企画プロセスをマネジメントし、シティバンクの日本における消費者金融戦略の成功を導きました。

インタビュー詳細:早稲田ビジネススクール内のグロスバーグ教授のオフィスにて、東京ネクサスCEOのモンローシェリダン・リード(以下、モンローシェリダン)との対談形式で進められました。内容は、消費者マーケティング、日本マーケットへの参入、早稲田マーケティングフォーラムについて、日本のイノベーション、イスラエルのイノベーションについてです。

以下は、インタビューからの抜粋を和訳したものです。読みやすさを考慮し、多少の編集を施しておりますことをご了承下さい。

グロスバーグ教授へご連絡されたい方は、 kengross@waseda.jpまで。
モンローシェリダンへご連絡されたい方は、reid@tknexus.comまで。
東京ネクサスに関する詳細は、こちらをご覧下さい

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経歴と現職について

東京ネクサス(以下、TN):あなたのバックグラウンドについて、そしてどのようにして外国人として唯一の早稲田ビジネススクール終身在職教授になられたのかを簡単にお話し頂けますか。

グロスバーグ教授(以下、KG):それでは手短かに話しますね。私はまず、プリンストンとハーバードにて、日本の中世史学者としてキャリアをスタートしました。しかし、当時は雇用市場がひどい状態でしたので、仕事を得るためにハーバードビジネススクールのインテンシブプログラムに入学し、博士課程の再教育を受けることにしました。70年代の終わり頃にはよくあったことです。そして最終的には、ニューヨークのウォールストリートで職を得ることになりました。最初は、バンクのトレーニングプログラム、その後は証券会社でM&Aに従事しました。ここで数年働いた後、私は自身のコンサルティング会社である、Orient West Consultantsを立ち上げました。顧客には、Business WeekやMetropolitan Life Insurance Companyなどがいました。

それから2年後、シティバンクから、アジア太平洋地域における消費者金融セクターのチーフストラテジストにならないかとのオファーを受けました。シティバンクは、消費者金融から日本のマーケットに参入したいと考えており、日本とその他のAPAC9ヶ国における戦略企画プロセスを私に率いて欲しいと頼んできたのです。こうして、1985年に私は日本に行き着いたというわけです。

シティバンクでは、私と私のチームは、側面戦略(フランキング)を展開しました。その時の私たちは、言うなれば象のお尻にあるニキビみたいなものでしたから、日本の大銀行と直接対決なんて出来るわけがありません。そこで私たちは、彼らがやらないこと・出来ないことで競争したのです。私たちが打ち立てたこの戦略は、1987年に雇われたシティバンク日本支店の新しいヘッドによって非常に効果的に実行されることになりました。

TN: シティバンクに勤めた後は、何をされていたのですか。

KG: 実はニューヨークに戻って自身のコンサルティング会社を再設立しようとしたのですが、ちょうどその頃、ニューヨークのYeshiva大学がビジネススクールを設立するため多額の補助金を受け、そこでのマーケティングプログラムを立ち上げるために私が採用されました。そこで、私は4年間過ごすことになりました。

その後は、Fullbright客員教授奨学金を得てTel Aviv大学へ行くことになり、1992年に家族と共にイスラエルへ移りました。ちょうどオスロ・プロセスが始まった頃だったので、非常にエキサイティングな時でしたね。結局、私たちはイスラエルで9年間を過ごし、2001年に私が早稲田大学の新しい国際MBAプログラムの終身在職教授として招かれたため、日本に戻ってくることになったのです。ご指摘の通り、外国人としては今のところまだ唯一の早稲田ビジネススクール終身在職教授です。

TN: 現在、マーケティングの専門家として従事しているプロジェクトについて、大筋を教えて頂けますか。

KG: 現在は、専門雑誌”Strategy and Leadership journal”に寄稿しています。また、コンサルティング業務に関しては、B2Bエリアにおける大手顧客とのビジネスを拡大中です。顧客の名前をあかすことは出来ませんが、私のコンサルティングは全体的に戦略マーケティングにフォーカスしており、企業戦略の構築や評価、有望な企業のリーダー達への研修を行っています。

「贅沢な節約」について

TN: ”贅沢な節約”のコンセプトを教えて下さい。

KG: 贅沢な節約とは、2008年に株マーケットが崩壊した後、私が考え出したコンセプトです。その頃、突如ターゲット市場が崩れ落ちたことで消費財会社が厳しい状況に陥っているのを目の当たりにする一方で、それでもなお人々が贅沢をしたい要求に駆られているということが分かったのです。

贅沢な節約には二つの基礎的な構成要素があります。それは、理性的・実用的な側面と心理的・感情的な側面です。

ゴディバは日本における”贅沢な節約”型の消費をうまく活用してきました。

ゴディバは日本における”贅沢な節約”型の消費をうまく活用してきました。
写真クレジット:Shibuya246 | Licensed under Creative Commons 2.0

贅沢な節約には二つの基礎的な構成要素があります。それは、理性的・実用的な側面と心理的・感情的な側面です。全体的な考え方としては、あなたが自分のために贅沢をすることについてですが、特に不景気の時にはよくあることで、贅沢をすることに罪の意識を感じることがあるでしょう。しかし、もし企業が消費者に提供するものが贅沢なものであっても、あなたがそれを素晴らしい買い物だと感じて罪の意識を感じる必要がなかったらどうでしょう。この場合は、二倍のベネフィットがあります。

スターバックスのような会社を思い浮かべてみて下さい。高いコーヒーを売っているのに、不景気の時でも人々はこのコーヒーを買い続けていました。節約はしていたけれど、それでもなお、スターバックスに行くことで人々は贅沢をしていました。なぜなら人々は、それをお金の無駄使いだとは思っていなかったからです。その高いコーヒーは人を良い気持ちにさせました。人々はこれを、手が届く贅沢だと考えたのです。

より具体的な日本の例を挙げると、ゴディバ(Godiva)でしょう。ゴディバは日本の市場向きに戦略を変え、日本のコンビニエンスストアでも売れるような商品を加えました。これは明らかに贅沢な節約です。衝動買いを誘いますし、手が届くけれど贅沢で幸せな気持ちにさせるものだからです。

経済は改善しましたが、マーケティングコンセプトとしては”贅沢な節約”は現在でも非常に意味のあるものだと考えています。

イスラエルへの「Startup Nation Study Tour」

TN: イスラエルにおける”Startup Nation Study Tour (以下、SNST)”について教えてください。

グロスバーグ教授が主催するStartup Nation Study Tourでは毎年イスラエルを訪問します。

グロスバーグ教授が主催するStartup Nation Study Tourでは毎年イスラエルを訪問します。
写真クレジット:Amir Yalon | Licensed under Creative Commons 2.0

SNSTは、Dan Senor氏とSaul Singer氏による著書”Start-Up
Nation”にインスパイアされたものです。この本は、イスラエルで進化しシリコンバレーに次ぐスタートアップ(起業)の発展に関して、イスラエルが世界第二位の中心地となることを可能にしたスタートアップエコシステムについて書かれています。

イスラエルでは、新たな会社を立ち上げる際に過去の失敗が妨げにはならないため、相次いで起業家たちが現れることは珍しいことではありません。私はグローバルマーケティングイノベーションを勉強しておりますが、これらの起業家たちが市場に持ち込むモノは非常に革新的であり、このSNSTはイスラエル人以外の方が自身のビジネスのために新たなアイディアを生み出す刺激になるのではないかと考えています。

このツアーでは実際に、これらのイスラエルにおけるスタートアップや起業家、ベンチャーキャピタル会社、インキュベーター、アクセレーター、大学を訪問します。SNSTは、まさに今述べた現象をビジネスパーソンたちに紹介する理想的な場なのです。イスラエルは小さな国ですが、ナビしやすいですし、夏は気候も非常に良く、食べ物も素晴らしいです。そして、見所も多くあります。

このツアーの一環として、日本の役員・経営者の方々は、イスラエル人がどのようにビジネスプランを立て、実行に移し、失敗した場合はどのように継続し、新しいことを試し、最終的に成功に至るのかを知ることが出来るでしょう。

日本ではイノベーションの必要性について広い理解がありますし、多くの日本の役員・経営者の方々はイノベーションについて更に学ぶ必要がありますから、SNSTの参加対象者を日本に絞ることは良いと考えています。このツアーの一環として、日本の役員・経営者の方々は、イスラエル人がどのようにビジネスプランを立て、実行に移し、失敗した場合はどのように継続し、新しいことを試し、最終的に成功に至るのかを知ることが出来るでしょう。

日本では、多くの役員・経営者の方々はいまだに雛形通りのマネジメントをしています。一方で、イスラエルには、決まった型がありません。日本のマネージャーの方々にとってそれは心地よいものではないことは分かっていますが、雛形がない環境がどのように機能しているのかを知るのは良いことではないでしょうか。

私はこのツアーを少人数に抑えることで、お互いに知り合う時間を多く持てるようにしています。それに、素晴らしいレストランでは一つのテーブルをみんなで囲うことが出来ますからね!最初のツアーは2012年夏でした。日立アジア太平洋の元ヘッドも参加者の一人でした。2013年には、サントリーイノベーションセンターのマネージャーも参加されました。そして今年の8月のツアーには、Clinton Foundationのロンドン支店ヘッドが参加予定です。

イスラエルと日本のコラボレーション機会について

TN: イスラエルのベンチャーキャピタリストや起業家たちは、イスラエル文化がスタートアップエコシステムの繁栄に貢献しているとよく言っていますが、イスラエル文化の何が有利になっているのでしょうか。

KG: 一般的に、イスラエルの会社の構造はフラットです。ヒエラルキーもあまりありません。人々は下の名前で互いを呼び合いますし、アメリカ人の役員でさえ目上の人にしたら失礼だと思うようなふるまいもします。

イスラエルでは自分の意見を自由に表現します。日本のマネージャーの方々にとっては衝撃的なレベルでしょう。

イスラエルでは自分の意見を自由に表現します。日本のマネージャーの方々にとっては衝撃的なレベルでしょう。日本における礼儀正しさの概念は、他人があなたに何を言って欲しいのかを読み取るよう努力することにつながっていますが、イスラエル人は他人が何を聞きたいのか考えることはありません。もちろんそれは弱みでもありますが。

イスラエルは小さい国ですが多くの重要なネットワークがあります。日本はネットワークの国として知られていますが、同時にサイロ、NIH症候群(Not-Invented-Here Syndrome)の国として知られており、非常に損な状態になり得ます。イスラエルでは、大部分の人がIsraeli Defense Forces(IDF)に仕えたことがあり、IDF時代に知り合った人と生涯友人関係を継続します。また、会社の革新や戦略への貢献度に関しては恐らく日本よりも性別による差異は少ないでしょう。

TN: IDFは、よくエンジニアのためのトレーニング場だと言われていますね。

KG: そうですね。先ほど紹介した本、”Start-Up Nation”では、IDF内のエリート部隊がどのように人々にトレーニングを施し、後に人々がそのスキルと経験を活かして民間の市場で大きな成功をおさめるかについて書いていますし、間違いなくそのようなものがあるのでしょう。

On Opportunities for Collaboration Between Japan and Israel

TN: イスラエルの会社の成功から学ぶことの中で、日本の会社が最も実行しやすいものは何だとお考えになりますか。最も手が届きやすいものは何でしょう。

多くの日本企業は改善する能力に長けていることで知られています。

多くの日本企業は”改善”する能力に長けていることで知られています。
写真クレジット:Kojach | Licensed under Creative Commons 2.0

KG: 日本の会社は、”改善すること”と欠点が一つもない商品を創り出すことが非常に得意です。これらはイスラエル人が一般的に得意としていない分野です。日本の会社は、規模や財政的影響力に欠けるイスラエルの会社と容易にパートナーシップを築き、競争力を飛躍的に高めることが出来るでしょう。これは簡単なことです。

実際に、日本ではサムライインキュベートというスタートアップインキュベーターのディレクターが今年5月にイスラエルへ移り、事務所を設立してイスラエルのベンチャービジネスに関する全てを学ぼうとしています。これは新しい進歩です。過去には詳しい調査や一部の投資も見られましたが、私はこの動きは今後更に大きくなっていくと考えています。日本の会社は、自身の文化を犠牲にしない限りは、今も成功に対して強い欲求を持っていると思うからです。

その他の分野で日本人とイスラエル人の間に実際にシナジーがあると考えられるのは、規模だと思います。日本のようなある特定の国々は、巨大な多国籍企業になるまで帝国を築き上げ続けるものたちがいることで知られていますよね。これはイスラエル人とは異なる姿勢なのです。私はここにも、ビジネスコラボレーションを通じてお互いの利益に結びつく機会があると考えています。

その他の分野で日本人とイスラエル人の間に実際にシナジーがあると考えられるのは、規模だと思います。日本人は大きな組織をどのように作り上げるのかを知っているので、規模を大きくする手段を知っています。一方、イスラエル人はよくキャッシュアウトしてしまいます。日本のようなある特定の国々は、巨大な多国籍企業になるまで帝国を築き上げ続けるものたちがいることで知られていますよね。これはイスラエル人とは異なる姿勢なのです。私はここにも、ビジネスコラボレーションを通じてお互いの利益に結びつく機会があると考えています。

TN: 日本-イスラエル間のパートナーシップに関して、成功例をいくつか教えて頂けますか。

KG: 日本の会社が海外の会社を買収するに至ったとき、その会社がイスラエルの会社ではない場合でもR&Dセンターをイスラエルに有していたり、イスラエル支店の一部または全部を有している場合が度々あります。例えば、武田製薬の場合がそうでした。また、最近では楽天がViber Mediaを買収したように、日本の会社が直接イスラエルの会社を買収し始めています。

TN: 本日はお忙しい中、貴重なお話をどうもありがとうございました。

KG: こちらこそ。


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